LOGIN第236話 もう愛を隠さない
「おめでとう! お前がすごいって分かってたよ! ほら、俺が買ったんだ。開けてみろ」
――うちの嫁は、どこを取っても完璧だ。
でなければ、一目惚れした挙げ句、ここまで夢中になることなどなかっただろう。
美月の機嫌はもちろん良かった。
素直にプレゼントを受け取った。
「香水? いつ買いに行ったの?」
白く長い指が、あっという間に精巧な包装を解いた。
香水を手に取ると、蓋を開け、試すようにそっと手首につけてみた。
その瞬間、思わず目が輝いた。
香りはほとんど感じないほど淡いのに、ふわりと漂って、いつまでも後を引くように残った。
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第242話 余計な人間は見たくもない蓮は本当に、余計な人間など一秒たりとも見たくなかった。幸い、食事もようやくお開きになった。「行くぞ」二人が帰ろうとするのを見て、翔太が慌てて声をかけた。「おい、蓮。そんなに急いでどこへ行くんだよ? それなら、美月を連れてクラブで遊んでいかないか?」「あっち行け。俺たちには俺たちの予定があるんだ」その一言で、翔太の好奇心が一気に刺激された。「どんな予定だよ?」蓮は横目で翔太を睨んだ。「家のシアターで映画を見る。それがどうした? なあ、翔太。俺たち夫婦にはやることが山ほどあるんだよ。独り身のお前が、いちいち詮索するな。暇なら彼女でも作れ」――人様の間に無理やり割り込もうとするから、こんな目に遭うんだ。翔太は絶句した。「……」――お前、少しは人間らしくしろよ!毎日毎日、独り身をネタにしやがって。独り身に人権はないのか?翔太は目をくるりと動かすと、美月のほうを振り向き、にこにこと尋ねた。「美月、今日は珍しく早く退社したんだし、クラブで少し息抜きでもしない?」美月は微笑んで断った。「ありがとう。でも、いいわ。だって、私、毎日早く退社してるもの」翔太は言葉を失った。「……」―
第241話 野次馬なら俺を外すなよ紫雲楼の支配人が翔太に電話をかけたのも、瑛士が個室に入ってからのことだった。もちろん、店の外で何があったかを店員たちから報告されたからだ。店員たちは二人の会話までは聞き取れなかったが、二人が対峙している様子は見ていた。だから、店員が『桐生様と神崎様が今にも殴り合いになりそうでした』と報告しただけで――翔太の下で働く者なら、事情を知らないはずがない。――もしかすると、本当に殴り合いになっていたかもしれない。何しろ、妻を奪われた男の恨みに、夫を奪われた女の恨みまで絡んでいるのだから。上流階級ってのは、本当にやることがすごいな。「待ってろ。今すぐ行く……」翔太はそう言い捨てると、火がついたような勢いで通話を切った。――こんな面白い場面、立ち会わずにいられるかよ。三十分後。蓮たちは、まだ食事を終えてはいなかった。とはいえ、そろそろ終盤に差しかかっていた。そのとき――個室のドアが、ドンッと音を立てて勢いよく開いた。蓮はすぐに眉をひそめた。そして、不機嫌そうに元凶を睨みつけた。「何しに来た?」翔太は、へへっと二度ほど笑った。「別に、お前に会いに来たわけじゃないぞ
第240話 蓮様、どうやら「あれ」の準備をしたいらしい結局、二人は店を変えず、そのまま紫雲楼へ入った。――なぜ私たちが譲らなきゃいけないの?優香はそう思い、そのまま引き返したのだ。蓮と美月は個室に入っており、外で二人が口論した末、結局この店に戻ってきたことなど知る由もなかった。「新作の看板料理、どれでもいいか?」美月はメニューをちらりと見た。「ええ、いいわ」「じゃあ、これと、これ。それから、これも……全部頼む」「そんなにいらないわ。余ったらもったいないし、何品かでいいでしょ。二人しかいないんだから」「分かった。お前の言うとおりにしよう」蓮はそう言って、今度は飲み物の欄を指差した。「何を飲む? 酒か、それともジュースか?」「ジュースにするわ。あなたが飲みたいなら、お酒でもいいけど」「いや、飲まない。俺は……こづ……」危うく「子作り」という言葉が口から飛び出しそうになった。美月はもちろん気づかず、不思議そうに尋ねた。「こづ? 何?」「……あー! つまりだな……俺は運転するから、酒は飲めないんだ。夜も遅いし、お前に運転させるわけにもいかないだろ」――まだ老眼で目が霞んでいるわけでもないのに、夜だからといってど
第239話 今後、胸糞の悪い奴を俺の前に近づけるな二人とも、あの二人には会いたくなかった。だが、世の中には空気の読めない人間もいる。歓迎されていないことなど、お構いなしだ。むしろ、自分から近づいてくる。そして案の定、瑛士と優香が目の前に現れた。瑛士の視線は、美月の顔へと吸い寄せられた。それでも、なかなか目を逸らせない。だが、これ以上見ていればまずい。瑛士はなんとか視線を逸らし、蓮のほうを向いた。「蓮、まさかこんなところで会うとはな。お前たちも食事に?」蓮は、内心で鼻を鳴らした。――何が偶然だ!くそったれ、ついてないにもほどがある。顎を上げ、嘲るように笑った。「飯を食いに来たんじゃなきゃ、何なんだ?」瑛士は、蓮の嫌味などまったく気にしていなかった。何しろ、蓮の性格は昔からこうだった。傲慢で、ひねくれている。「……せっかく会ったんだ。一緒にどうだ?」そう言いながら、視線はそれとなく美月の顔へと向けられた。――美月と縁を切ってからというもの――二人で食事をしたことは、一度もなかった。そう思うと、瑛士の目には、さらに寂しげな色が浮かんだ。蓮はそれを
第238話 害虫がやって来た瑛士は、その提案に強い拒否感を覚えた。嫌でも思い出してしまうからだ。――かつて美月と付き合っていた頃、二人でどこにも出かけなかった。今となっては、なおさら旅行なんてする気になれない。瑛士は淡々と言った。「……また今度だ。今回は時間がないし、足もまだ完治してない。歩くのも不便なんだ」本来なら、半年は療養が必要なほどの怪我だった。幸い、海外から専門家を招いて特効薬を使ったおかげで、どうにか歩けるまでに回復した。だが、長時間立つことはまだできない。負傷した足が痛むのだ。優香は断られた途端、笑顔を消した。内心では、かなり不機嫌だった。――婚約するのに、旅行にも行けないなんて……笑いものになるじゃない。だが、その不満を胸の奥へ押し込め、再び笑みを浮かべた。「私の配慮が足りなかったわ。嬉しさのあまり、あなたの足がまだ治っていないことを忘れてしまったの。それじゃあ、足がすっかり良くなってから、旅行のことを改めて計画しましょう」優しく気遣うようなその言葉に、瑛士の表情も少し和らいだ。「ああ。足が治ってから、改めて計画しよう。そのときは、どこへ行きたいか俺に言ってくれ」その言葉を聞いて、優香もようやく少し気が楽になった。――その気になってくれれば、それでいい。
第237話 暇なら自分で嫁を探せ蓮は画面に表示された番号を一瞥し、もう一度切ってやろうかと思った。――だが、この男は一度かけ始めると、とにかくしつこい。いつまでも出なければ、本当に延々と電話をかけ続けるだろう。そう考えた蓮は、美月の仕事の邪魔にならないよう、オフィスを出た。外に出ると、通話ボタンをスライドさせた。「重要な用件なんだろうな?」その口調は、ひどく剣呑だった。翔太は蓮の悪い癖など、とっくに慣れっこだ。にこにこと笑いながら、口を開いた。「夜は美月を連れてうちの店に来るんだろ? ちょうど俺もまだ飯を食ってなくてさ。俺も一緒にどう? 飯は人数が多いほうが楽しいだろ」蓮は、言葉を失った。「……」そして、呆れたように言った。「なあ、翔太……暇なら、さっさと女でも探せよ。まあ、俺の嫁ほどいい女は見つからないだろうけどな」蓮は、そこで自慢げに続けた。「何しろ、俺の嫁ほど優秀な女は唯一無二だからな。少しくらい条件を下げて探せばいい。そうすりゃ、これからは一緒に飯を食ってくれる相手くらい、見つかるだろ」翔太は、絶句した。「……」――ただ一緒に飯を食いたいと言っただけなのに、よりによって、のろけを延々と聞かされる羽目になるとは。この恥知らずめ……!翔太は、心の中で盛大に毒づいた。